小説

なんて恋は素晴らしい!

 ねえ、どうだったの。お見合い。 落ち着いたカフェの奥に位置する窓際のテーブル席。私と友人の定位置。席について注文をするやいなや、友人は小さな声で聞いてきた。一応は気を遣ってくれているらしい。前のめりの姿勢がちょっとマイナスだけど。「どうだ…

もう恋は始まっていた

 あの日胸を打った衝撃を何と呼べばいいのか、未だ分からずにいる。 強く抱き締める細い腕も、頬を擽る柔らかな髪も、おひさまの匂いも、あの日あの場所で「ラウダ・ニール」は形作られた。「……ぼく、も」「うん?」 幸せな息苦しさに気付いたのか、抱き…

12/31 23:00

 ラウダの部屋の奥、サイドボードに置かれた時計が23を示すのをベッドに転がったまま眺める。 年が明けるまであと1時間。クリスマスに少しだけ家に立ち寄った父はグループの懇親会やら何やらで今日もいない。いつも通り22時には身支度を済ませ、「おや…

1201無配

変わらないもの「兄さん」 追いかけてきた声に振り向く。 地球へ出向しているラウダの元へ訪れて二日。明日には宇宙へ上がる予定だったが、秘書課からいい加減休みを取ってくださいとホリデー休暇を押し付けられたので、結果的に今年のクリスマスは兄弟水入…

Blessings to you

prologue あたりに人影はない。 ジェターク・ヘビー・マシーナリー本社フロント。その奥にある最高経営責任者――CEO執務室へと続く廊下は煌々と照らされているものの、影を落とすのは両端に等間隔で置かれている観葉植物だけだ。 そこへ一人の…

いい兄さんの日

「兄さん、今日が何の日か知ってる?」珍しくラウダの方から話しかけてきた。いつもはおれの後ろでじっとこっちを見てるか、おれから話しかけるのを待って答えるのに。珍しい。嬉しくなって「何の日だ?」と返す。もしかしたらラウダの誕生日とか(まだ教えて…

狙いを定めて

客席がザワつく。このイントロは珍しい客降りがある曲。しかもラウダが客の手を取ることもある。グエルはガチ恋増やしすぎて事務所NGならぬ弟NGが出たらしい。「来たっ! ……え?」嘘。こんな夢みたいな。ラウダの視線がこっちを見る。万が一、億が一っ…

或る朝

【注意事項】こちらの作品は、ラウグエ初夜アンソロ『Love is Growing』内、歯様作品のスピンオフとして書かせていただいたものです。(主催者様、歯様の承諾は得ております。)是非すばらしい原作をお読みいただいた後にご覧ください。やわら…

辿る疵痕

前作「僕に消えない疵をつけて」の続き 「……難しいですね」何度目になるか分からない医師の言葉に、グエルは小さく息を吐いた。礼を伝えて診察室を後にする。行き先は足が勝手に向かってくれる。「兄さん」病室の扉を開けるや否や、弟の声が出迎…

僕に消えない疵をつけて

何事かを言いかけて口ごもった弟に、グエルは手元の端末から視線を上げた。「どうかしたのか?」尋ねてみてもラウダの態度ははっきりとしない。常ならばあれこれと効率的に用事を済ませる弟の珍しい姿に、今度こそグエルは手も止めた。「言いたいことがあるな…

HAND IN HAND

兄さんがいない。今日は父さんが社のフロントから戻ってくる日だからと朝からそわそわしていたのに。(……それなのに)虫の居所が悪かったのか、家庭教師の告げた兄さんの成績が思わしくなかったのか、父さんは苦い顔をしていた。兄さんと二人であいさつをし…

早計にゃんステップ

「兄さん?」開いたドアの先に呼びかける。返事はない。まだ朝食に遅れるような時間ではないが、「入るよ」と声をかけるとラウダは足を踏み入れた。ベッドは綺麗に片付けられ、制服の上着はクローゼットにかかったまま。端末は枕元のホルダーに収まっている。…