あの日胸を打った衝撃を何と呼べばいいのか、未だ分からずにいる。
強く抱き締める細い腕も、頬を擽る柔らかな髪も、おひさまの匂いも、あの日あの場所で「ラウダ・ニール」は形作られた。
「……ぼく、も」
「うん?」
幸せな息苦しさに気付いたのか、抱き締める力がわずかに弱まる。肺を満たした温かさが消える寂しさを思いながらそっと息を吐く。
「ぼくも、お兄さんがいたなんて、うれしい、です」
ここに来るまでの重苦しさは一気に霧散した。この人が、グエルが、僕の兄だという。
「他人行儀だな。同い年なんだしグエルでいいよ」
「っでも、呼び捨てなんて」
「おれはラウダって呼ぶけど、いいか?」
嫌な気はしなくてこくりと頷く。けれどグエルと呼ぶにはなぜか心臓が痛くなる。未知の感覚だ。
「兄さん、って呼んでも……いい?」
少しだけ距離を縮めた方がいいのかと、敬語だけ取り払ってみる。するとさっきとは全然違う笑顔が返ってきた。子どもっぽい表情もするんだ。たった数分間の間にいろんな顔を見せてくれて、なんだか今度は頬が熱くなる。
「当たり前だろ! よろしくな、ラウダ」
差し出された手を握る。その温度はじりじりと僕の心臓を焦がし続けている。
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