1201無配

変わらないもの

「兄さん」
 追いかけてきた声に振り向く。
 地球へ出向しているラウダの元へ訪れて二日。明日には宇宙へ上がる予定だったが、秘書課からいい加減休みを取ってくださいとホリデー休暇を押し付けられたので、結果的に今年のクリスマスは兄弟水入らずで過ごすことになったのだ。
 フロントと違い気候の移ろいが残る地球。現在の季節は、冬。欧州の中でも北に位置するこの土地は、グエルの予想した以上に空気が冷たい。
「ラウダ」
 ぶるりと身震いしたグエルの首元にふわりと温もりが戻る。ラウダは鮮やかな深紅のマフラーを手際よく巻き付けると、綺麗に結び目を整えた。久しぶりに兄の世話を焼けて嬉しいのか、口元が緩んでいる。
「チェスターコートだけじゃ寒いでしょ」
 お前は、と言いかけた口を閉じる。ラウダは薄手のマフラーを既に着用していた。濃紺の髪に薄紫の布地がよく映える。
「……懐かしいな」
 見上げた兄につられるように、ラウダも視線を上げる。広場の中央にはどっしりとした樅の木が鎮座していた。この地域の伝統工芸らしき木工細工やささやかな電飾が深い緑を彩っている。
 並んで見上げるツリーは幼い頃見た景色と違うけれど、隣にある温度は変わらない。ラウダから伸ばした指先に一瞬驚いてみせると、グエルは相好を崩した。

一番星

「二時間で戻る。あとのことは彼に任せてあるからな」
 ぽん、ぽんと雑に頭を撫でて立ち去る父親の背中をグエルは見つめている。そんな兄の横顔を斜め後ろから眺めるのもここ数ヶ月でラウダの習慣になっていた。
「では行きましょうか」
 グエルが幼い頃からヴィムに仕えている男は心得た様子で二人を促した。
 クリスマスを目前に控えたフロントは賑やかに色付いている。赤や緑、金で染まった街は鮮やかに映えて道行く人々を楽しませていた。クリスマスマーケットを思わせる品々が店先にも並んでいる。
 幼い二人も例外ではなく、あちらこちらに視線を移しながら男に導かれるまま歩いていく。向かった先は四方を建物に囲まれた広場だった。中央に、天候パネルまで届かんとするクリスマスツリーがそびえ立っている。見上げた先、頂上には星が瞬いている。
(いちばんかっこいい、兄さんみたいだ)
「ラウダ!」
 どれほどそうしていたのか、不意に寒さを感じてふるりと肩を揺らすと兄の声が聞こえた。次いで、ふわりと柔らかな温もりが顔を包む。
「兄さん?」
「このフロントは冬季に気候調節してるんだ。寒くないようにマフラーするといいぞ」
 うん、似合う。とグエルは満足げに微笑む。ラベンダーカラーに白糸でアーガイルの模様が施されたマフラーは、確かによく似合っていた。グエルも同じ模様の赤いマフラーを巻いている。
「……おそろい」
 呟いて、ラウダも静かに微笑んだ。

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