小説

約束

約束通り早めに帰宅し、キーや荷物を定位置に置く。室内は明るいものの兄の姿はない。ラウダは無意識のうちに左の薬指を撫でていた。つるりと滑らかなリングが、そこは自分の居場所だというように静かに収まっている。そのままリビングの壁際に備え付けられた…

刻印

真上から押し潰すようにラウダは自重をかけた。完全に拓ききったナカがすべてを受け入れようと蠢く。ラウダの形を憶えてしまった内壁はいとも簡単に快感を拾う。ぴたりとくっついているだけでも充分すぎるほど気持ちいいのに、シーツをきつく握る手から何度も…

共犯

だめだよ、と咎める声は心細さをもって響いた。しんとしたキッチンには幼い兄弟以外に人の姿はない。父は遠方に出張中、屋敷の者たちも自室に下がっている時間。本来なら二人ともベッドで眠っている筈だが、うっかり本の世界に没頭していたラウダは夕食を食べ…

ふたりね

兄に案内された自室は少ないラウダの荷物をすべて散らかしても気にならないほどの広さがあった。扉の正面に二人の背よりずっと高い窓があり、部屋の右側にはやはり二人が大の字になって寝ても充分すぎる大きさのベッドがある。戸惑うラウダにグエルは「狭いか…

0721

株式会社ガンダムとの提携事業をラウダが任されるようになってからしばらく経つ。兄との連絡は日に一度、数分の通話のみで終わることも多い。互いに忙殺されているが故は勿論だが、どこか距離を測りかねているところもあるのだろう。もう少し、あと少し、兄の…

ねこみみもーど

むず痒さを頭上に感じて、ベッドに転がったまま手をやる。もふ、と触れたのは自分の髪とは異なる感触で、グエルは首を傾げながら身体を起こした。もう一度手を動かしたみる。もふ。髪よりも柔らかい感触。しかも、触れていることがなんとなく分かる。いてもた…

貴方は知らない

夜、話があるからと自室を訪れた弟を見て、グエルは首を傾げた。やけに顔が赤い。それに弟の癖でもあるが、前髪を弄る左手が痕でもつきそうなほどきつく握られていて、思わず「大丈夫か」と声が出た。「……何でもないよ」「何でもないって顔じゃないだろ。い…

最悪の目覚め

「ラウダ」兄の声に呼ばれるように、重い目蓋を上げた。薄ぼんやりとした天井は見知ったジェタークの屋敷のものだ。いつの間に戻ったのか。視線を左右にやるが兄の姿は見えない。ぼやけて見える景色はやはり自室のようで、なぜ兄がここに、という疑問も浮かん…

rain

かつて地球には四季というものがあったらしい。一年を四つに分割し、春夏秋冬、それぞれ気候の異なる日々があったのだとか。それも自然の中で。理論は分かるが、人にとって快適な天候や気温が完全に制御されて久しい宇宙では実感しようもないものだ。だからだ…

秘め事

触れた手のひらから伝わる、僅かに高めの体温。さらりとした感触が気持ちよくて、ラウダは重ねたグエルの手の甲を親指の腹でなぞる。と、ひくり、肌が震えた。灯りを落とした室内は薄暗く静かで、聞こえてくるのは穏やかな寝息と興奮の熱を隠しきれない吐息だ…

guilty

自慰行為を覚えたのが兄より早かったのだと理解したのは、ある昼下がりのことだった。メイドたちの目を盗むように連れ出されたのは屋敷の片隅。人工太陽の明かりが作る木漏れ日に、兄さんの瞳が揺らめく。「おい、ラウダ。聞いているのか?」「……え? あ、…

アスティカシア学園生徒の受難

今日も今日とてジェタークの御曹司周辺には人の群れがある。隣に在るのが当然とばかりに歩くのは弟のラウダ、それから取り巻きのフェルシーとペトラ。その他大勢。まるで行列だな、なんて思いながら近くを通りすがった時。ふとーー本当に何気なくーー見上げた…