秘め事

触れた手のひらから伝わる、僅かに高めの体温。さらりとした感触が気持ちよくて、ラウダは重ねたグエルの手の甲を親指の腹でなぞる。と、ひくり、肌が震えた。灯りを落とした室内は薄暗く静かで、聞こえてくるのは穏やかな寝息と興奮の熱を隠しきれない吐息だけだ。
「兄さん……」
一度寝入るとなかなか目覚めない兄の性質を知っているから、幼い頃から始めたこの習慣は彼が学園に入学したあとも止められずにいる。
ジェタークの屋敷に移り住んだ頃、不安と寂しさとで寝付けずにいたラウダの手を取ってくれたのは嫡子の兄たるグエルだった。広すぎるベッドの真ん中にふたり寝転んで、手を繋いで、「あったかいだろ?」と笑う兄のことは今でも昨日のことのように思い出せる。あの頃より随分大きくなったけれど、触れる熱は今も変わらない。
俯せに寝るグエルの上衣が乱れている。裾をそっと捲り上げれば現れる美しい肢体に溜息がもれた。手のひら全体で腰骨の辺りを撫でる。
(少し熱をもっているな……トレーニングのし過ぎか? メニューはよく考えているだろうけど、水星女のことを変に意識してやりすぎじゃないか? カミルからも止めてもらわないと……)
「……んっ、ぅ……」
指先に力が入ってしまったらしい。兄の呻き声にぱっと手を離す。
「ごめん、兄さん」
聞こえていないだろうが、小さく謝った。それからまた、背骨に沿って腰から肩甲骨まで触れていく。何度か往復するうちにグエルの吐く息が熱を帯びていくのがわかった。これもラウダの密やかな――誰にも知られてはいけない――楽しみである。
手の位置を下げ、腰の窪みに指の腹を埋めるようにやわやわと動かす。
「ぅ……んん、……っふ、ァ……」
むずかるようにグエルの腰が揺れる。吐息混じりの声は常の威圧感などどこにも感じさせず、むしろ甘やかなものだ。
慣れたように、手を下肢へ滑らせる。引き締まった双丘は、けれど柔らかくラウダの手のひらを押し返す。その合間にある谷へと指を進めていけば、ひっそりと閉じたアナルに指先が触れた。先端を宛がうように少し力を入れる。きゅう、と乾いたそこが吸い付くように動く。
「……ッは、兄さん……」
手首ごと柔い肉に挟まれる感覚。まるで引き止めるかのような動きは、たとえ無意識下のことでもラウダの鼓動を速くする。
「気持ちいいの……?」
くにくにと指先を小刻みに動かせば、追いかけるように穴がひくつく。ラウダは下半身に痛いほど熱が集まるのを感じながら、兄を起こさぬようそっと手を引き抜いた。張り詰めたペニスが自身の服を押し上げている。兄に触れていた手で布越しに触ればそれだけで果てそうなほど興奮している。いつまでこの行為が許されるのか、そう遠くはない終わりを見つめながら、ラウダはそっと部屋を後にした。

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