刻印

真上から押し潰すようにラウダは自重をかけた。完全に拓ききったナカがすべてを受け入れようと蠢く。
ラウダの形を憶えてしまった内壁はいとも簡単に快感を拾う。ぴたりとくっついているだけでも充分すぎるほど気持ちいいのに、シーツをきつく握る手から何度も達していることを理解しているだろうに、弟は「ねえ兄さん」と呼び続けた。
兄さん、兄さん。
甘い声が耳朶に注がれる。兄の前でしか発さない声をグエルは案外気に入っていた。ただし日常生活において、である。
ぐぷ、と中で吐き出されたものが泡立つ。さらに奥へと塗り込めるようにラウダの腰が動く。過ぎた快感に四肢から力が抜けていく。そうすればぐぷん、とまた奥へ切っ先が届いた。声にならない悲鳴が漏れる。
ぐずぐずに融けた兄の姿は――どんな兄の姿であってもラウダは好きだが、どこか自分のいない場所を眺めているようで寂しかった。見てほしくて、言葉にしてほしくて、苦しいだろうと理解しながら背中に覆い被さる。
「僕のこと好き? ねえ好き? 好きって言って?」
駄々をこねる子どものように呟けばグエルは啼いて応えた。
「す、好ぎ、だからァ゛……! も、やめ……っ」
ほんの僅か、少しでいいから止まってくれと。そう言って泣くグエルの言葉にセーフワードは含まれていない。ぞくぞくした感覚がラウダの背筋を走る。
「……っごめ、ん゛ぅ……!」
「どうして謝るの?」
腕の下で啼く兄はこんなに可愛いというのに。ラウダより先に果てたことか、それとも弟を不安にさせたことにだろうか。
先程から不随意に収集する内壁はその度グエルが達している証だろう。ラウダにとって悦びでしかないのに。
「ふふ、」
知らず笑みがこぼれ出た。
「可愛いよ、兄さん」
そう言えばグエルの中が歓ぶことを知っている。するりと手を潜り込ませシーツの代わりに自分の指を絡ませる。縋りつくように握られる感覚が心地良い。
「僕はね」
「ん……」
うなじに息のかかる距離で。
「兄さんのこと」
「あ゛……っ」
一言ずつ。聞き逃すことなど許さないというかのように。
「……大好きだよよ」
「あ゛うっ、――ッ!」
吐息と共にぐっと腰を押し込む。
激しい動きではない筈なのに、グエルはびくびくと全身を震わせた。一際大きな波がラウダを襲う。見開いた蒼の焦点が定まらない様子にやりすぎたかと一瞬焦るが、絡めた指がきゅ…と握り込まれる。
「……もっと?」
乱れた前髪をかき上げれば、小さく開いたままの口元がうっそりと笑った。

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