今日も今日とてジェタークの御曹司周辺には人の群れがある。
隣に在るのが当然とばかりに歩くのは弟のラウダ、それから取り巻きのフェルシーとペトラ。その他大勢。まるで行列だな、なんて思いながら近くを通りすがった時。
ふとーー本当に何気なくーー見上げたグエル・ジェタークの横顔になぜかどきっとするような色香を感じて、思わず振り向いた。
些細な動きだったのに、こちらを見下ろす御曹司と一瞬、視線が交差する。ぺこりと形だけの会釈をして急いで駆け出した背中に
「おい、通路を走るな!」
かかる声は偉そうな態度そのもので。
いやそんなわけない、グエル・ジェタークに、あんな不遜な男にときめくなんてあるわけない。いつもと違う匂いがしたから気になるとか、そんなこと……うん?
そうか、何か引っかかったと思えば、漂う香りが違うのだ。気付き足を止めた、その時だった。
「おい」
「ヒッ!? な、なんですか、ラウダ先輩……」
「気付いていないならそのままでいろ。そうでなければ……分かっているな?」
(何が!?)
なんて聞けそうにない雰囲気。背後から立ち込めるのは暗雲だろうか。
俺にできるのは勢いよく返事をしてその場を逃げ出すことしかない。気のせいだ。目の前から漂う香りがグエル先輩と似ているのなんて、きっと気のせいだ。
あとになって、兄弟なんだから同じ香水を使っていてもおかしなことはないだろうにと気付いたものの、あんな形で牽制されたということは……俺は自分の身を守るため、考えることをやめた。
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