「兄さん、今日が何の日か知ってる?」
珍しくラウダの方から話しかけてきた。いつもはおれの後ろでじっとこっちを見てるか、おれから話しかけるのを待って答えるのに。珍しい。嬉しくなって「何の日だ?」と返す。もしかしたらラウダの誕生日とか(まだ教えてもらっていない)ラウダにとって特別な日とか? きらきらした瞳でおれを見上げる弟は早く言いたげにそわそわしてる。おれはラウダが大事に抱えている「とくべつ」を分けてもらえるようで、どきどきしながら待った。
「あのね、今日は『いい兄さんの日』なんだって」
秘密を打ち明けるように、そうっとラウダが呟いた。
「……いい兄さんの日?」
オウムのように繰り返したおれの声が予想と違ったのか、ぎくりとラウダの肩が強張る。まずい、そういうつもりじゃなかったんだ。ごめんなさい、と動きかけた唇を見留めて急いで「あーあ!」と声を張る。
「兄さん……?」
「なんで『いい弟の日』がないんだろうな。ラウダはこんなにいい弟なのに」
「兄さんっ」
慌てたラウダの顔が――耳まで真っ赤に染まってる。軌道修正はうまくいったかな、良かった。
「どうせなら両方一緒にしたらいいのにな?」
「それじゃあ語呂が合わなくなっちゃうよ、兄さん」
「うーん、『弟』なら『10』にすれば……?」
「兄さん、無理があるよ」
柔らかく響いた笑い声におれの心臓もほっとする。でも両方ないのはおかしいだろ、やっぱり。
「あっ、『いい兄弟の日』ならどうだ?」
「もう数字関係なくなってない?」
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