Gratefulday2024 - 3/3

告白したらすげなく断られるのだろうと思っていた私の予想を良い意味で裏切って、グエル先輩は誠実に、けれど期待を抱く余地は残さず断ってくれた。私が好きだと思ったグエル先輩の魅力はそのままに――どころかより増して見えて――恋心はいつしか憧れと尊敬に形を変えていた。
そんな折、委員会合同の会合で顔を合わせたグエル先輩と話していたら後頭部に突き刺すような視線を感じた。思わずふり向いた先にいるのはシャディク先輩とラウダ先輩。でも二人はあっちを向いて話しているし、気のせい? そう思って視線を戻すけどやっぱり背後に違和感が残る。
「……っ」
「どうした、調子でも悪いのか」
「いえ、体調は良いんですけど」
身震いした私に気付いたグエル先輩は、早めに切り上げるよう提案してくれる。こういうところが、普段の言動があったとしても人気のある所以なのだろう。先輩の心配を無碍にもできず、議題も急ぎではないからと会合を延期してもらうことにした。無理するなよ、とグエル先輩の声を背にして部屋を後にした私はエントランスまで来て忘れ物に気付いた。何してるんだろう。ぼうっとしてたのか、悪寒に気を取られていたのか。委員の中に親しい子はいないし、急いで会議室に戻る。途中でシャディク先輩とすれ違ったけどグエル先輩はまだ残っているんだろうか。
「……ラウダ」
失礼します、と言いかけて伸ばした手が止まる。まだ二人とも残ってたんだ。別に気にせず入ってしまえばいいのに固まった足がなぜか動かない。聞き耳を立てる方がどうかとも思うのに。
「僕は一度カミルのところに寄ってから戻るよ。兄さんは先に寮へ戻ってて」
相変わらず温度を感じないラウダ先輩の声。でもグエル先輩と話す時はもう少し感情が乗っていた気がするのに、今日はやけに素っ気ない感じだ。
「ラウダ。こっち見ろ」
「……なに」
「言いたいことがあるなら言え。……お前の悪い癖だ」
グエル先輩はグエル先輩で、呆れたような声で話すのはあまり聞いたことがない。居丈高な物言いはある意味聞き慣れているけど。
「言いたいことなんて、」
ラウダ先輩が素直にグエル先輩の言うこと聞かないのも、レアといえばレアかも。……いやこれ、覗きになってない? 早く端末だけ取りに入って帰りたい。でもこの雰囲気の中ずけずけ入っていく勇気もない。
「ラウダ……何年お前の兄をしてると思ってる」
気付かないわけないだろ、と呟くグエル先輩の声がびっくりするほど甘い。何これ。ラウダ先輩、こんなふうに言われてなんで平気なの!? 私や友達ならときめきでひっくり返ってる。
「……甘やかしたいの? 兄さん」
……お二人って兄弟なんですよね?
「お前の方こそ」
もっと分かりやすく甘えればいいのに。
って、今の、グエル先輩が言ったの? 本当に? 幻聴じゃなくて?
好きな人の意外な一面を知ると余計に好きになるのかと思ってたけど、どうやら違ったらしい。この二人の間に入り込む余地なんてきっと、一ミリもない。
「で、さっきから何をしているんだ?」
「ひっ!?」
地響きがどこからか聞こえてくるような地を這う声。冷静沈着(だけど熱い一面もある)ラウダ先輩の、知りたくなかった新たな表情を見つけてしまった。これ、この突き刺さるような視線、さっきの……!?
「すっ、すみません!!」
私にできることは平謝りをしつつ置きっぱなしの端末を回収し一目散に寮へ戻ることだけだった。

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