仕返し

降下した地球は茹だるような暑さだった。歩くどころか立ちすくむだけで汗が噴き出し肌を伝う。兄の首筋を伝う雫にラウダは人知れず唾を呑んだ。ひとまず座ったところへガイドが「良ければこれを」と持ってきたのは透明なグラスに入った何かだった。受け取った指先がひやりとする。「この地域では暑くなると氷を削って食べていたそうで」聞けば、青いものはシロップだという。先に口をつけたグエルは口の中に広がる清涼感に目を細めた。つられてラウダも口にする。途端にこめかみのあたりを痛みが走った。「……ッ」瞬きをする間に痛みは遠退いたが、今のは。顔を上げて兄を見るが、その目に心配の色はない。いつもなら真っ先に手を差し出すのに。「……兄さん?」「や、すまない。かき氷は急に食べると頭が痛むんだ」俺も昔やった、と笑う兄の言う「昔」とは、ラウダが知らない時代のことだろう。ほんの少し寂しさを覚えながらも表情には出さず、ラウダは突然思い出したように「そういえば」と言った。「地球では夏になると幽霊が出るんですよね?」「おや、そんなことまでよくご存知で」再び視線を向けると、笑いかけたままぎしりと固まった兄がいた。(これくらいの仕返しは許されるよね?)

【幽霊】「茹だる」「こめかみ」「椅子」

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