願い事ひとつ

もしも一つだけ願いが叶うなら、何を願う?
突然の問いかけにラウダは琥珀色の瞳を揺らした。
「一つだけ……?」
「そう、一つだけ。あっ、何でも叶えてほしい! ってのはナシ」
両手で大きくバツをつくる兄に弟はくすくすと笑う。休憩時間に入る前、家庭教師が話していた「七夕」の逸話から思いついたのだろう。けれどラウダは悩んだところでなかなか答えを出せずにいた。グエルは隣であれもこれもと指を折っている。
「……あ」
「思いついたか?」
自分より嬉しそうに笑うグエルを見て、うん、とラウダは頷く。
「兄さんとずっと一緒にいられたらいいな」
素直に言うラウダに、グエルは俺ェ?と調子外れな声を出した。予想より驚く兄にラウダは慌てて謝る。俯いた視線は自分の膝小僧から上げられない。
「なんで謝るんだ?」
「だって兄さんの気持ちも聞かないで勝手なこと言ったし、それに、迷惑、だった……?」
おずおずと見上げるラウダの視界に、呆れたような、でも喜びを隠しきれないような兄の表情が映った。
「そんなの、願わなくたって当たり前だろ」

きょうだいなんだから。そう言って笑った兄の顔を、ラウダは今でも覚えている。

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