僕の好きなこと

熱いのに乾いた手のひらが肌に触れる。
肩を、腕を、胸を、腰を、まるで輪郭を確かめるように。
内に秘めた熱が確かにあるのに、それを見せてはくれなかった。まるで壊れ物のように扱われて、グエルは思わず弟の名を呼ぶ。
「お前の好きなようにしていいんだぞ」
「兄さん……」
気を遣わずとも、少しくらい乱暴に扱ったところで壊れるほど脆くない。兄の意図を的確に汲み取ったうえで、ラウダはぐっと腰を押し付けた。奥を拓かれる感覚。けれど続く衝撃はいつまで経っても訪れなかった。
「……ラウダ?」
視線を合わせたまま、二人の距離が近付く。唇の端を吸われ物足りなさに舌を出すと、弟は嬉しそうに微笑んだ。
舌を絡め、吸い、また触れるだけの口吻をする。その合間にゆるゆると腰を進めれば緩んだ奥が先端を飲み込んだ。じわりと腹の裡に熱が広がっていく。行為はセックスに他ならないのに、あまりに穏やかな熱の交歓はグエルを戸惑わせた。揺れる蒼を琥珀が覗き込む。
「これが僕の好きなことだよ。兄さんのこと、大切にしたいんだ」
「――ッ!!」
見たことのない表情。これほど穏やかに笑う男だっただろうか。不意打ちに耳まで熱くなる。
思わず視線を逸らしたグエルは全身を真っ赤に染めていた。一糸まとわぬ肌を晒してくれることに喩えようもなく興奮し、喉を鳴らす。ラウダは一晩かけて愛を告げるべく、兄の耳朶へと唇を寄せた。

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