※フロント内の空調が地球の気候を模した設定(極端にはならないよう調整された上で)にされている、という捏造。
するりと足元から入り込む冷気にラウダは身を震わせた。手を滑らせれば冷たいシーツの感触。そういえば気候設定が切り替わる時期だったか。
ぼんやりとした視界の向こうに揺れる闇色のカーテンは兄が選んだものだ。隙間から細く差し込む光は白く、ちらちらと煌めくのは宙に浮かぶ塵だろう。
(……雪みたいだ)
そんなわけはないのに、昔、兄と見たアーカイブの映像を思い出す。てのひらに触れたら溶けて消えるのだと、教えてくれたのは誰だったか。
「ん……」
グエルが寝返りを打つ。と、空気のかたまりが動きひやりとした外気が侵入してきた。グエルの手がぱたぱたと何かを探すように動く。ラウダの腕に触れるとそのまま背中へと回り、ぐ、と強く引き寄せられた。
「にいさん……?」
起きたのかと、ちいさく呟くが返ってくるのは穏やかな寝息ばかり。無意識のうちに幼い頃の癖が出たのだろう。
とはいえラウダも成人男性だ。そう簡単に動かせる体躯ではない。兄の意図を読み取り――寝ぼけているのを言い訳にもして――ラウダは兄の懐へ潜り込んだ。うろうろと置き場所を探していた腕が頭を抱え込む。ラウダも自らの腕を兄の背に回し、少しだけ力を込めた。深く息を吸い込めば肺の中が兄の香りで満たされる。
触れた箇所からじわりと温度が溶け合う。眠りの淵へと誘われるように、ラウダは瞳を閉じた。
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