また今度

荷物を取ってくるからとラウダがテントを離れてすぐ、ぱたぱたと小刻みに聞こえていた音はあっという間に絶え間なく降り始めた。
そう言えば今月は夕立が天候プログラムに入っていると思い出したものの時既に遅し。テントを張った場所までは屋根などない。しまったなと思いながら荷物からタオルを取り出す。と、泥の跳ねる音と共に弟が戻ってきた。
「兄さん」
「悪かったな、ラウダ。濡れただろ?」
「これぐらいなら大丈夫だよ」
はい、と手渡された袋にはマシュマロとチョコ、ビスケットが詰まっている。ラウダが食べてみたいと言ったから準備したのに自室に忘れるとは。
「とにかく中に入れ」
「でも、」
濡れるよ、とは皆まで言わせずグエルは弟の腕を掴み軽く引いた。弾みで室内に入ったラウダは観念して遠慮がちに膝をつく。兄が大切にしている場所を汚したくはなかった。そんな弟の気持ちを知ってか知らずか、グエルは手にしていたタオルをラウダの頭に被せた。ふわ、と柔らかな毛足が頬をくすぐる。
「に、兄さん……?」
「そのままじゃ風邪をひく。じっとしてろ」
「……うん」
返事をする前に大きな手のひらがタオルごと頭を掴む。がしがしと大胆に(傍から見たら雑に、だが)拭かれるのが、ラウダは嫌ではない。時折絡み引っ張られる痛みすら、ラウダにとっては兄との思い出になる。
「今度は止むのを待ってから来いよ」
言葉に滲む気遣い。それだけでなく、「次がある」ことがラウダの胸を跳ねさせた。頬が熱いのは風邪じゃない。多分。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です