※全部出ません※(多分)
この世界には第二の性が存在する。義務教育を終える頃に発現されるというα、β、Ω。中学の卒業を間近に控えたジェタークの子供たちも例外はなく、第二性の検査結果を受け取った。自らがα性であることを一瞥すると、ラウダは隣に立つ兄を見た。素晴らしい兄もまた、α性だと確信して。その顔色が酷く青褪……
静謐な邸の中をモノトーンの裾を僅かに揺らしながら歩く。足音をできる限り立てぬようにして。そうっと押し開いたドアの先からは今日も微かな寝息が聞こえてきた。髪を後ろで一つにまとめた女は広いベッドを横目に窓辺へ向かう。えんじ色の布に指をかけると、先程とは一転し勢いよくカーテンを開いた。……
東の最果てにあるその国には、龍神の加護があるという。しかし百年に一人、神へ人柱を捧げるという契りが建国から続けられてもいた。その日、竜の鱗が戸に刺さっていたのは国の重鎮でもあるジェタークの屋敷であった。口々に噂が広まっていく。当主であるヴィムか、それとも嫡男であるグエルか。ふと……
「あなたは誰ですか?」聞いたことのない声のトーンに、グエルは思わず足を止めた。リノリウムの床がきゅっと音を立てる。弟が冗談でこんなことを言う訳がない。それにグエルを真っ直ぐ見つめる瞳は、おそろしく凪いでいた。せんぱい、と後ろからフェルシーの震える声が聞こえる。……
「グエル先輩がアイドルだったらどんな感じだと思う?」唐突な話題。ランチ時、次の講義が急遽自習に変わったから暇なんだろう。友人が楽しそうに続ける。「きっとオラオラ系が似合うよねえ。ラップとかも上手そう!ラウダ先輩とは同じグループかなあ」「ラウダ先輩は別グルでしょ。タイプ違うじゃん」……
「こっ、これは俺の友人の話なんだが……!」たった今食べようと開けた口を閉じると、カミルはスプーンをトレイの上に置いた。グエルが相談とは珍しい。幸い寮の食堂には半端な時間とあって人影も少ない。「それで、何に困ってるんだ」「友人が、だ」「そうだったな」囲む人間は多くともグエルの友人は……
スレッタとミオリネから一通の封筒が届いた。手紙など、随分と古風なことをする。「兄さん、どうしたの」玄関に顔を覗かせたラウダはグエルの手元を覗き込むとあからさまに眉を顰めた。変わらぬ様子に苦笑しつつ、グエルは「どうする?」と聞く。宛先には二人の名が書いてある。……
兄さんが縮んだ。文字通り、縮小された。ミニチュアとかフィギュアとか、そういったサイズ感だ。可愛い。いや違う、どうしよう。なんとかしないと。慌てる僕に向かって兄さんが下から手を振る。これ違うな、手を振ってるんじゃなくて持ち上げろって言ってるんだ。そっと両手を差し出すとよじ登った兄さ……
「グエル先輩ってぇ、胸回り何センチあるんですかぁ?」「なッ!? はしたないぞセセリア!」「だって気になるじゃないですかぁ。バストアップの良いトレーニング方法があるなら教えてほしくって」「トレーニングか? それなら」「答えなくていいから兄さん。セセリア、次に不届きな質問をしたら……
毎晩夢を見る。夢の中で僕は艶やかな髪を手入れしている。癖のある髪へ丁寧にブラシを入れていくのを、彼は心地よさそうに受け入れていた。彼?顔も見えないのに何故分かるのだろう。確かに名を呼ばれているのに、彼の声は遠くぼやけている。肩に手を触れようとして「……またか」いつも目が覚めるのだ……
休暇を取らないかと提案したのは珍しくグエルの方だった。幸い、大きな取引が一段落したところで先の予定も落ち着いている。秘書室は? と聞けば既に話も通してあるらしい。なあ、と重ねられた左手に二本の輪が光る。「……一週間、地球の別荘に行かないか」「それって……」皆まで言わせるなと視線が……
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