珍しいこともあるものだと、シャディクは足を止めた。
決闘委員会のラウンジは常に誰かしら集まっていて一人きりになることは少ない。ジェターク寮寮長であり常に数人と行動を共にしているグエルが一人で――それも無防備にうとうとしているなんて――明日は突然試験があってもおかしくないな、なんてひっそり肩を揺らしながら一つ席を空けて腰を下ろした。
こんなに広いソファなのに、グエルときたら腕組みをして難しい顔をしたまま固まっている。水星から来た彼女にホルダーの座を奪われた彼は、今は自分と同じ色の制服に身を包んでいる。己の想定する最良をミオリネに与え得るグエル・ジェタークだからこそ、トロフィーの争奪戦から身を引いたというのに。
「まったく……何をしているんだい、グエル」
こんなところで油を売っている場合ではないだろう。シャディクの声が聞こえたのか、眉間の皺が深くなる。
そういえば「威厳を示すため」だとか何とか言って、怖そうな表情の練習をしていた入学前のことを思い出す。前髪を染めた時もだが、グエルのこういう突拍子もない行動がシャディクは嫌いではなかった。
それにしても、こんな顔で寝なくてもいいだろうに。起こさないようそっと指先を伸ばす。伸ばした先はきつく噛みしめた唇で、親指の腹でゆるゆるとなぞれば徐々に力が抜けていった。薄く開いた口から漏れる吐息が熱い。その中に指を、舌を捻じ込み、驚く顔でも見てやろうかと一瞬昏い感情が浮かぶのを、長く息を吐くことでやり過ごす。
そろそろお迎えが来る頃かと、グエルを起こすべく肩に手をかけた。
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