CEOがミオリネ・レンブランと婚約したニュースは立ちどころに駆け巡った。一度はガンダムを駆る少女に破れ失ったホルダーの座を、再び手に入れたらしい。そこから即婚約とは畏れ入る。会社のためなら何をも厭わないというのは真実のようだ。
「この後はミオリネ嬢と会うので?」
隣に裸体のまま転がる青年へ声をかける。先程までの熱はとうに冷め、冷たいシーツに長い手脚を投げ出す男はうろ、と視線を彷徨わせると「ああ…」とだけ応えた。腕で支え、身体を起こす。常は俊敏な彼がこうして疲労を滲ませる度に、抑えようのない感情が肚から湧き上がる。そんなことおくびにも出さないまま、壮年の男は青年を見つめた。
「どうかしましたか」
「いや……なに、君が誰かのものになるというのは不思議なものだなと」
「俺が……ミオリネの……」
かつて逆の立場で――若さ故の愚かさで――口にした言葉を聞き、グエルは自嘲の笑みを浮かべた。この身は最早自分のためにどうこうすることはない。ジェタークを、父との繋がりを護るためならば。
「心配せずとも融資は引き続き致しますよ」
「それは……ありがたいです」
男の言葉は暗にこの関係の終わりを示していることも理解して、グエルは頭を下げた。汗に濡れ額にはりついた前髪をそっとはらわれる。潤む蒼に、男はひととき見惚れた。そして左手を恭しく持ち上げると、静かに唇を寄せる。遠くない未来にリングが嵌まるだろう指に口付けて「がんばりなさい」と笑む。グエルの表情は陰になったまま、男が見ることは叶わなかった。
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