【注意事項】
こちらの作品は、ラウグエ初夜アンソロ『Love is Growing』内、歯様作品のスピンオフとして書かせていただいたものです。
是非すばらしい原作をお読みいただいた後にご覧ください。
「……お前がよだれ垂らして寝ていた時から」
悪戯っ子のような笑みを浮かべて兄が言う。驚きに頬を紅潮させながら、ラウダは「最初からじゃないか」と声を上げた。兄の体を心配して今日はどうしようかと考えていたのに、当の本人はまるで何でもなかったかのようにしている。指摘された下半身が収まる気配は全然ないが、まさかここで自慰を始める訳にもいくまい。
「もう……!」
会話を打ち切り、急いでトイレへ駆け込む。追いかけてくる気配がないことに束の間の安堵を覚えながら、ラウダは壁に背をもたれかけた。
無理矢理引き上げてきたスウェットを太股あたりまで下ろす。ほぼ完全に勃起したペニスを利き手で握ると急いで手を上下させた。慣れた感覚に腰が震える。以前よりきつく握ってしまうのは兄の狭さを知ってしまったからだろうか。そっと目を伏せて数時間前の光景を思い浮かべる。
挑発するような表情とは裏腹に、兄の内側は初めて受け入れる異物をきつく締め付けていた。恐る恐る進もうとすれば先を阻み、かといって腰を引けば離さないといわんばかりに内壁が引き留める。けれど兄を傷つけまいとするラウダの配慮は本人によって打ち砕かれた。気付いた時には夢中で腰を振っていた記憶しかない。
「ん……ッ、兄さん、う、はぁ……っ」
先端から滲み出た精液を竿の部分に塗り込めながら強く扱く。きつく寄せられた眉根、濁った音を途切れ途切れにこぼす唇、欲を孕んだ瞳。記憶の中、五感に届くすべてがラウダの劣情を煽る。ぐちゅぐちゅと濡れた音が室内に響く。
「兄さん、兄さん……ッ」
じりじりとせり上がる感覚に手を速めるが、渦巻く熱は溜まる一方だった。無理矢理堰き止められたような感覚は初めてで吐き出す息が熱くなる。頬は朱に染まり視界が滲んだ。
(っ、早く終わりにしたいのに……!)
なんで、と浮かぶ疑問の答えは誰よりラウダが知っている。
「う゛ぅ、兄さんのせいだ……っ」
呟いた瞬間、応えるようにノックの音がした。
「――ッ!? あっ、ァわッ!?」
思わず手に、太股に力が入る。
「おい、いつまで籠もっている気だ」
兄の声。揶揄うような、僅かに苛立ちも含んだような。
「俺のことはほったらかしなのか?」
返事をしようにもそれどころではない。とにかくイってしまいたいのに想像だけで達することができない。これまでこんなことはなかったのに。いつもは整っている眉尻がしゅんと下がる。
「ちょっと待っ、て、ごめん」
中で何をしているかなんてとっくにバレている。二度目のノック音はさきほどよりも大きい。
観念したラウダが扉を開けるとそこには仁王立ちのグエルがいた。
「……兄さん」
「一人で楽しそうだな?」
片手で隠した下半身を一瞥すると、グエルは弟の様子を見下ろした。太股までずり下ろしたスウェット。汚さないようにたくし上げたシャツ。グエルより厚みのない体躯は僅かに紅潮している。ばらけた前髪は汗ばんでこめかみに張り付いていた。潤んだ瞳が「ごめん」と訴えてくる。
すぐに出して戻ってくると思った弟が長いこと戻らないので心配になったのだが、果たしてこの状況をどうしたものか。ドアを閉めて「ごゆっくり」と言うこともできたが、それでは勿体ない。獲物を目の前にした猛獣のように、グエルは唇を舐めた。
ひとつ息を吐き、その場にしゃがみ込む。長髪に隠れてラウダからその表情は見えなかったが、天色の瞳は興奮でギラついていた。
膝をついたグエルが大きな手を弟の腰へと伸ばし、顔を寄せる。先端に舌を伸ばしたところで兄の意図に気付いたのか、ラウダは悲鳴にも似た声を上げた。
「兄さん!?」
「うっぷ」
思いきり手のひらで顔を押し退けたラウダをグエルは不満げに見上げる。
「……何するんだ」
「それはこっちのセリフだよ兄さん!?」
「いいから。手、退けろ」
「無理」
即答したのも無理はない。綺麗な兄の顔がグロテスクな自分の性器に近付くだなんてあり得ない。あってはいけない。
「ラウダ」
首を振る弟とじっと見つめる兄。無言の攻防の末、先に折れたのはやはり弟の方だった。
「……そんなにまじまじと見ないでよ……」
そっと兄の顔から外した手は行き場を求めて宙に浮いている。明るい場所で弟の性器を眼前にすると、これが自分の中に入っていたのかとグエルは半ば感心していた。道具で拡げていた時とは違う、触れ合った場所からぐずぐずに溶けていきそうな熱を思い出す。グエルの視線に興奮したのか、充血したペニスがひくりと揺れる。
(……入る、か?)
ひとまず片手で竿の部分を軽く握る。それだけのことなのに手の中の熱が脈打ち、頭上からは押し殺した息が聞こえる。自身の性器よりは細身だが、それでも口の中に収まるかどうか。ぱかり、と口を開けてみるがよく分からない。むぐと唇を合わせる。
(どうにかなるだろ)
うんと頷いて、それでも一気に呑み込む勇気は出ずグエルはちろりと舌を出した。
「うぅ……っ」
いつの間にか先端から滲んでいた粒を舐め取る。味はよく分からなかった。ただ、呻いたラウダの腰がびくびく震える感覚が掴んだ手に伝わってくるのは愉しい。もっと反応させてやろうと出した舌全体を使って亀頭をべろりと舐めた。
「ッひ、ぁ」
ラウダの両手がグエルの肩を掴む。また引き剥がすかと思われた手はそのまま縋るように力がこもる。
(……ここ、俺は気持ち良いけど)
親指の腹で裏筋を下から擦り上げる。同時に亀頭の先端を舌先で刺激すれば、肩を掴む力が更に強くなった。
「に、さ……っ、それ、」
「気持ち良くないか?」
分かっていて聞くのは意地が悪いなと思いつつやめられない。れ、と出した舌に亀頭を転がしながら弟の顔を見上げる。
「……ッ!」
これ以上赤くなるのか、というぐらい赤面した弟が可愛い。グエルの愛撫に、言葉に、全身で感じてくれる弟が愛おしくて堪らなかった。意を決して一度口を閉じる。それからできるだけ大きく口を開くと、グエルはペニスの先端をゆっくりと口の中へ迎え入れた。
「ぅあっ」
「ん……」
歯を立てないように、反り返った亀頭の部分をそっと唇で食む。いつだったか動画で見たフェラチオはペニスを喉奥まで呑み込む勢いで扱いていたが、果たしてできるのだろうか。グミのような弾力のある亀頭をもごもごと口の中で遊ばせる。
「むふはひいあ」
「兄さんッ、そこで喋らないで……!」
グエルはむっとしながらも口を開いた。唾液と先走りとで濡れた先端がてらてらと光る。
「意外と難しいな」
唇の端から垂れた液体を指で拭いながら、グエルはもう一度口を開けたり閉じたりしている。もう充分、あとは自分でどうにかするから、と言ってしまえばいいのに、兄の未開の地を拓くという欲望がラウダを後押しする。
「……よし。やるぞ」
「うん……」
先程よりも大きく口を開いたグエルが先端に顔を寄せる。ゆっくりとペニス全体を呑み込むように唇を這わせると半分程が収まった。鼻から息を吐き、唇に少し力を入れて顔を引いていく。昨夜兄の中から抜こうとした時の感覚が不意に思い出され、ラウダの腰が震えた。
「ん……ふ、む……ぅ」
脈打ち質量を増すペニスにグエルは視線だけでにやりと笑う。
「わ、ァ……ッ!?」
要領を得たのか、グエルは片手で根元を支えるとそのまま顔を前後に動かし始めた。唾液の混じる音が次第に大きくなっていく。悪戯な指先が膨らんだ精嚢をくすぐり、ラウダはどこに意識を割けばいいのか分からず必死に兄の肩へしがみついた。
「……っ、は、ぁ……っ兄さん、んん……ッ」
快感に耐える弟の声が耳に心地よく響く。同時に昨夜の弟の乱れる様が思い出されてぞくぞくした感覚がグエルの背中を走った。自分の愛撫にむせび泣く弟も大層可愛かったが、どうせなら。
夢中で腰を振っていた弟のいつになく乱暴な動きも、負けじと喉笛を噛み千切ろうとする爛々とした瞳も、味わいたい。
「は……ぁえ、なんで……」
急に動きを止めたグエルを縋るように見下ろしてしまう。中途半端に高められた熱は出口を求めて渦巻くようで、その苦しさにラウダは眉をきゅっと寄せる。すぐにでも射精させてやりたい気持ちになりながら、グエルは弟の腰に回していた手を外すと自分の肩へ移した。指先が白くなるほど掴んでいるラウダの手に重ね、誘うように自分の頬へ回させる。
「にぃさん……?」
潤んだ琥珀が融ける。その瞳に映るのは弟の性器を頬張った兄の姿だけ。グエルはそれだけのことにおそろしく興奮を覚えた。
ゆっくりと――弟に自分のしていることを見せつけるように――口を開く。
「らうだ」
口腔内を埋められているからあやふやな発音で名を呼べば、それにも弟は昂ぶったらしい。じりじりと琥珀が揺らぐ。
「すきにうごいていいぞ」
もごもごと口にした言葉は伝わっただろうか。
グエルが心配する暇もなく、ラウダの手ががしりと両頬を掴んだ。
「っもう、知らないから……!」
喜悦、羞恥、興奮、苦悶、あらゆる感情が綯い交ぜになってラウダを襲う。兄の行為も、言葉も、昨夜のセックスを思わせラウダを煽るものだと分かっているのに踏みとどまることができない。むしろ火に油を注がれたに近い。目の奥が熱く燃えるようだった。
「うっ、ふ……ッく、兄さん、兄さんっ」
「んぐっ、……ッ、は、ぁぐ……っん」
気付けばグエルの両手もしがみつくようにラウダの腰を掴んでいた。がくがくと頭を揺さぶられる度に切っ先が奥へと潜り込もうとする。いつでも兄のことを一番に考える弟が自信の欲を追いかける姿にグエルは満足そうに目を細めると、嚥下するように喉を動かした。下腹部に押し付けた鼻先を下生えがくすぐる。ぐぽ、と鈍い音が耳の奥でした瞬間、頭上であえかな声が漏れた。遅れて引き抜こうとした腰を力強く掴む。口の中にどろりと吐き出された熱は紛れもなく弟が自分で快感を得た証拠だ。
「――っは、……ぁ……」
汗と涙と涎と精液と。あらゆる水分でぐちゃぐちゃになった兄の顔をぼんやりと見下ろす。未だペニスはグエルの口に含まれているが昨夜の今日で精液はほとんど搾り取られたらしい。柔らかくなったそれを緩慢な仕草で引き抜くと兄がもごもごと口を動かしているのが見えた。ようやく我に返る。
「…………兄さん! うわっ、味見しないで! ここに出して!」
急いで巻き取ったトイレットペーパーを差し出す。どうしようか悩む素振りを見せた後、グエルは素直に口の中の物を吐き出した。白く濁った精液が広がる。その量に目眩を感じつつ、ラウダはくしゃりと丸めて便器の中へ落とした。足首までずり落ちていたスウェットを引き上げると未だしゃがんだままのグエルを見る。
「兄さん?」
「上手に出せたな」
にやりと、グエルは悪戯が成功した子どものように笑う。
(…………)
「ラウダ?」
どこかすっきりとしない表情に思えたラウダが様子を観察すると、グエルの着ているスウェットに起伏が見えた。膝をついて隠そうにも兄の性器の大きさでは隠しようがない。
「僕だけ気持ち良くなるのもフェアじゃないよね」
「いや、俺は自分で」
「今度は僕の番だね、兄さん」
語尾に音符をつける勢いで微笑んだラウダを止める術は今のところ持ち合わせていない。二人の脳内で、第二ラウンドのゴングが鳴り響いた。
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